倭漢三才図会

 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー  古典籍資料


和漢三才図会   卷四十二 原禽

 

『和漢三才図会』は、江戸時代中期、正徳3(1713)年頃出版された挿絵入り百科事典です。

  中国、明の『三才図会』(王圻編)にならい、30余年の歳月をかけ大坂の医師寺島良安によって編纂されました。

  所収項目は「天」「人」「地」の三才の大部に分類され、天文部から醸造部までの105部からなっています。

  各項目には図を示し、漢名・和名をかかげ、本文は漢文で解説されています。

  和漢古今の事象が考証されており、全体で105巻81冊に及ぶ壮大なものです。

 

倭漢三才図会 巻第四十二

 寺島良安 編

 文政7年(1824)刊本

 

 3/22頁 目録 原禽類 鶏 矮鶏  

 4/22頁 鶏

 5/22頁 矮鶏 

 


 

倭漢三才図会 寺島良安(尚順)編 

            大阪 中近堂 明治17-21第2冊中巻37-71

                        81/787-83/787

 

和漢三才図会巻第四十ニ

 原禽類

  鶏 にはとり

   和名加介 又云う久太加介 又云う木綿附(ユフツケ)鳥 俗云庭鳥

 

本綱に鶏は者稽也 能く時を稽(カンカフ)也 其の大なる者を蜀と日ふ

小なる者を荊と日ふ 其の雛をヒヨコ(日與子)と日ふ 卦に在ては

巽に属し 星に在ては昴に応す 其類甚だ多し 大小形色亦異なり其の鳴く也 時を知り棲(スムヤ)也 陰晴を知る外腎無 小腸虧 凡そ人家

故無く 群鶏夜鳴く者之荒鶏と謂ひ不詳を主とる 黄昏に独り啼く者天恩有ることをとる 之を盜啼と謂ふ 老鶏人言を能する 牝鶏の雄鳴きする者 雄鶏の卵を生する者 竝に之を殺すときは即ち已む 俚人鶏畜ふて雄無きときは即ち鶏卵を以て竈に告げて伏之を出す 南人鶏卵を以て黒を書き 煮熟 其の黄験し 以て凶吉を卜ふ 雄鶏の毛を焼て酒中に着け之を飲めは求る所 必ず得る古人言ふ 鶏は能く邪を辟くと 即ち鶏も亦霊禽也 鶏木に属すと雖も各色を以て之に配す  故に黄雌鶏(アブラノメドリ)は者 土に属す坤の象ち 補す脾胃温也 烏骨鶏は者水木之気受くる 故に肝腎血分之病及び虚熱の者 之に宜し但し 鶏の舌黒き者を観るに 則ち肉骨倶に烏(クロシ)也 白雄鶏は者庚金太白之象を得 故に邪悪を辟くる者之に宜し 其他亦之に准す 古者(イニシヘニハ)正旦に鶏の頭を磔(ハリツケ) 白の雄鶏良し 門戸を祭て東門以て邪鬼を辟く 葢(ガイ)し鶏は乃ち陽之精雄は者陽の之に体頭は者陽の之会東門は者陽の之方 純陽を以て純陰に勝つ 之義也

小兒五歳以下に鶏を食へは蚘虫を生す 鶏肉糯米と同じく食へは蚘虫を生す 鶏肉葫蒜芥李に合わせて之を食ふベからず 鶏肉生葱と同じく食へは虫痔と成る 鶏肉鯉魚と同じく食へは癰癤と成る    

 都ふて なれにし物を 庭鳥の 旅ねの空は 恋しかりけり

万葉

 我やとの きつには なて くたかけの またきに鳴て せ をやりつる  

古今 

 たがみそぎ ゆふつけ鳥か 唐衣 龍田の山に をりはへて鳴く  

 

△按鶏家々に之を畜て於庭に馴れる 因って庭鳥と称する 又家鶏(カケ)と称し 以て野鶏(キジ)別つ 其の種類甚だ多し 尋常(ヨノツネ)の鶏俗に呼びて 小国と名づく 能く鳴きて時を告て 丑の時より始めて鳴く者を一番鶏と称し 寅の時鳴く者を二番鶏と称し 人之を賞す 丑より以前に鳴く者を不詳為し 俗に之を宵鳴きと謂う 所謂る荒鶏盗鶏之の類なり 鶏を呼ぶ重言の声をトトト(音祝) 俗云う止止止

 

蜀鶏(トヲマル) 俗云唐丸 

 形大に尾短し 其中大鋸歯の冠如なる者有り 呼んで大鋸と日ふ 初め中華自り来て闘鶏と為す 最も強し

 

暹羅鶏(シャムトリ) 之夜無

 形蜀鶏より大に殊に微少なり 大抵高さ二尺余り 肩張り脛大く距尖りて長く 身の毛多くははげて 冠小し 性勁剛に能く闘ふ 倒と雖も逃んと欲せず 是れ初めシャムより来れり

南京鶏(ナンキントリ)

 初め中華の南京より来る 形和鶏(シャウコク)に似て純白尨毛(ムクケ)有り 脚蒼黒冠も亦黒色也 其の冠赤き者を地南京と名づく

 

矮鶏(チャボ)形小脚甚だひくし

 本綱に所謂る朝鮮の長尾鶏 尾の長三四尺 南越の長鳴き鶏 昼夜啼■ 南海の石鶏は潮至れは即鳴く 蜀中の鶤鶏 楚中の傖鶏竝高さ三四尺 此等は本朝未だ会って有らず

矮鶏(ちやぼ) 俗云う知也保 矮は鴉楷の切短也 長からず也 

△本綱に矮鶏は江南より出つ 脚纔(ワズカ)に二寸許り也

按矮鶏は嘴脚黄色なる者を上と為す 但し脚に毛有る者は佳ならず

尾長く勾(マカリ)頸の後にいたり また曲がり 垂れる者を之を佐志尾と謂ふ 翅濶く張る者並びに佳なり

 

南京矮鶏

 初め於南京より来る 最も小さく脚及び眼の色黄なり甚だ之を賞す 

同じく白矮鶏

 純白に尨毛(ムクケ)有り 冠黒き者最も勝れり 其の冠赤き者を呼びて地南京と日ひ之に次ぐ

 

加比丹矮鶏

 眼の色黒く脚亦黒を帯ふ 又之に次ぐ

凡そ矮鶏は高く飛ぶこと能はず 声も亦小さし 然れども時を告げるは諸鶏に異ならず也 矮鶏和鶏(シャウコク)に交わって生む所の者 形小に脚甚だ矮ならず 之を半矮と日ひ 下品と為す