蓑曳矮鶏


 本種の来歴の詳しいことは解っていない。

蓑曳矮鶏に関係する文献を下記に提示する。


 

 日本家禽全書 明治38年1月 発行 日本家禽協会

 

  長尾矮鶏

 

  此種の羽色は雄雌共にパートリッヂコーチンに彷彿たり、謡羽は

 極めて長く二尺以上に達す、覆尾羽も亦夥多にして長し

 



 

 尾長鶏並に諸鶏の記(五十嵐文書) 大正十二年 五十嵐正龍 記

 

   鶉尾の尾曳鶏

 

  鶉尾の尾曳鶏身体矮小にして褐色なり 尾蓑長く地にたれて見事な 

 り今各所に飼育せり

 



 

 高知県主催特殊家禽品評会

 

 高知県主催大正十三年度特殊家禽品評会は三月十六日より三日間県庁

庭前に於て開催され、十八日午後五時褒賞授与式挙行、優良鶏にそれぞ

れ賞状を授与した。

 

 大正十三年特種家禽品評会出陳名簿

 

  矮鶏ノ部

 

 出陳  種 鶏   羽 数  生 年 月   出陳人住所氏名

 番号       雄 雌 計

 一  鶉 矮 鶏 一 一 二 一二、八 吾川郡神谷村 尾崎音吉

 ・

 二九   仝   一 一 二      高知市通町  山本義雄

 三〇 黒色矮鶏  一 一 二 一二、一 吾川郡神谷村 氏原豊美

 三一 桜碁石矮鶏 一 一 二 一二、一二       仝  人

 三二 簑引矮鶏  一 一 二 一一、四 高知市本町  鈴江吉重

 ・



 

 家禽研究 第一巻第六号 大正十三年六月五日発行

    日本種号 12/15頁

 

  簑曳矮鶏

 本種は土佐の原産なり。褐色種最も普通にして稀に白色のものもあり。

 



 

 飼ひ鳥 七講(上) 三井高遂 大正15年(1926)

 

  簑ひき矮鶏

 

  簑ひき矮鶏は前の鶉矮鶏に長い尾をつけたものであります。

 その尾は直立しないで、水平になってゐます。

 二三尺も長く地に曳き摺るつてゐて、大変美しいものであります。

 羽は褐色であります。

 やはり土佐が原産地であります。

 



 

 チャボ 深川景義 昭和3年 (1928)

 

  尾曳チャボ(おびきチャボ)

   鶉チャボに似たもので、尾を二三尺も曳いて居る珍種である。

 

  簑曳チャボ

   尾曳チャボに似たもので、簑羽が一二尺も地を曳いて居る

   美事なものである。

 

尾曳鶏 赤笹種 平成3年5月5日(1991) 木全憲二撮影 作出者 山下政晴



 

 家禽図鑑  三井高遂・衣川義雄 著  昭和八年発行

 

  二.簑曳矮鶏

  来  歴

 本種はその来歴詳かならざるも、土佐の原産にして蓑曳種を縮小

 せる体型を呈し単冠を戴き羽色は褐色のもの最も多く稀に白色のも

 のもある。

  外貌・性能

一、体 型

 頭は小にして円く、嘴は細長、冠は雌雄共に小型にして五歯に分裂し、肉髯は寧ろ小さく円く、耳朶は大きく雄に於ては楕円形、雌は円い。

頸は太く短かく程よく湾曲し、雄の頸羽は夥多にして長くよく背を被いひ、両側に垂れて咽喉部に及ぶ。

背は雄に於ては長く広く、雌に於ては寧ろ長く、肩部は扁平、鞍羽は岬羽の付近より凹斜向上し、羽毛夥多。

翼は大きく長く、時に先端を地に曳くものがある。

雄の蓑羽は頗る長く且つ夥多にして地に曳き、その長きものは四尺に達する。

雌に於ては夥多にして垂下する。

雄の尾は大きく殆ど水平線下に垂れ、謡羽及び覆尾羽は長くして先端を地に曳くこと尺余に及ぶものがある。

雌に於ては大にしてよく開帳し、覆尾羽は夥多にしてよく主尾羽を被ふ。

体躯は稍長くして充実し、軟羽は稍短い。脚は寧ろ細く短かい。

 標準体重は雄二五〇匁、雌一八〇匁、若雄二〇〇匁、若雌一四〇匁。

性能は略チャボに同じ。

二、内種の体色

 褐色種 本種は雌雄共その体色は褐色簑曳種の雌雄の体色に同じ。

 白色種 本種は羽装全体白色にして極めて稀である。

 



 

 天然記念物調査記録 動物之部 第三輯

              文部省 昭和十三年一月二十日発行

 

  鶉矮鶏位の矮小なもので、その姿態は稍々東天紅鶏に似て、い 

 かにも優美なものであるが、その由来に就いては文献の徴すべき 

 ものがない。

 

  その羽毛は普通黒褐色で光沢に富み、肉冠は四つ切れ亦は五つ 

 切れで、耳朶は大きくて真白である。頸は短くて太く、体躯稍々 

 長くて方形を呈し、脚は短く、俗に芥色と云つて青黒色を帯びて 

 居る。

 

  頸羽及び鞍羽の蓑羽は豊かにして長く、ゆつたりと垂れ、と 

 きに長さ一米位にも及び、三年目に抜け換ると云はれる。

 

  昔は蓑羽の長く垂れて地に曳くものが多かつたが、今は甚だ少 

 なくなつたさうである。

 

  尾羽は豊かにすらりと流れて地に曳いて居る。

 本種の標準体重は雄820グラム、雌610グラムである。 

    



 日本鶏之歴史  小穴 彪  昭和26年9月5日 (1951) 発行

 

四.尾 曳

  本種は、高知県産の小型鶏で、もと蓑曳矮鶏と呼ばれていた(地元では単にミノヒキとのみ呼んでいた)が、長尾鶏を尾長鶏と改めた際、往々蓑曳と間違えられること、広義の矮鶏には違いないが、本種は元来チャボ程足は短くないこと、今日のものは昔のもの程蓑羽だけが特に発達していないこと等から、地元愛好家の希望により、尾曳と改めたのである。

 本種の体の小さいところは、同県産の小地鶏に似ているが、その尾羽と蓑羽は柔軟でよく伸長し、その伸長期間は小国の尾と同程度、或はそれ以上で、昔は蓑羽の長さ四尺に及ぶものが居つたということだ。

 本種は従来小地鶏より変化したものと言われていたが、その尾羽の配列を見るに、それは明らかに小国型であつて、変り本尾の変生は完全であり、多くは本尾の第二あたりまで変化している。

特に本種は大抵長い裏尾一対を持つている。

 右の如き雄鶏の尾羽や蓑羽の状態から押すと、本種は小地鶏より変化したものではなく、明らかに小国直系のものであるが、ただ小型鶏だけに、小国系統の中型鶏より直ちに変化したものか、それともその成立には小地鶏の如き小型鶏も参加しているのか卒かに断定はくだせない。

しかし、外観上、小国系統のものであることは確かであるから、本種を暫く小国直系の小型鶏、即ち小型長尾鶏としてこゝに掲げて置く。

 本種の作出年代に就ては全く知られていないが、何れ幕末時代に作出されたものであろう。

 昔は、本種の小型長尾鶏の本領を大いに発揮し、その尾羽と蓑羽とを長く後方へ曳いて闊歩する優美な姿をチョイチョイ見受けたものだが、近年の尾曳のうちには足が短かく、又、もと高知県下にいた丸尾矮鶏の血液を入れたものか、尾蓑が流れにならず、尾羽が内側に曲つてその裏を現わしているような頗るまずい型のものも見受けるが、これは昔の体型に還えして欲しいと思う。

 

 本種の標準体重は雄二百五十匁、雌二百匁。

体色は東天紅と同じで、羽色は赤笹。

冠は中型の一枚冠。

耳朶は楕円形で色は白、又はクリーム白

足は長さ中位で、色はヤナギが喜ばれる。

 

 本種は昭和十二年六月十五日、天然記念物に指定された。

 



 

 鶏種写真解説 堤 良三 昭和25年6月30日

 

 本種は土佐の原産である。羽色は褐色のものが多いが、偶々白色のものもある。

 

外観

 冠は雌雄共単冠、小型で、肉髯は小さく円い。

 耳朶は大きく、雄は楕円形、雌は円形である。

 雄の簑羽は豊かで長く、四尺の長きに及ぶものもある。

 雌の簑羽も亦豊かで、垂下している。

 雄の謡羽と覆尾羽は長く、地に曳くこと尺余に達するものがある。

 雌の覆尾羽も多くして主尾羽を被ふ。概して脚は細くて短い。

 羽色は白色のものと褐色のものとある。白色種は雌雄共全身白色であるが、褐色種は雌雄共に長尾鶏の褐色種の羽色と同じである。

 

特性

 本種は性温順で、就巣性がある。

 卵殻は淡褐色で、卵重は八匁内外、年産四十卵位である。

 体重は雄二百五十匁、雌百八十匁位が普通である。

 



 

 蓑曳矮鶏は天然記念物指定時の官報告示名称です。

 

 現在、尾曳(オヒキ)と表記する某保存会の書籍等により名称に混乱を生じております。

 

 明治38年刊行「日本家禽全書」に長尾矮鶏として、記載があるが蓑曳矮鶏と同じ鶏種か特定できない。

 

 大正12年、五十嵐氏は鶉尾の尾曳鶏の鶏名をあげ、鶉矮鶏と区別されています。

 

 大正13年、家禽研究 日本種号では簑曳矮鶏の説明を示し、簑の字を使用している。

 

 以後、三井氏の文献を底本したものには同字を採用した書籍がある。

 

箕曳鶏(明治30年)家禽審査標準 佐藤信平 東京家禽雑誌社

簑曳鶏(明治41年)家禽標準 佐藤信平 等編 日本家禽協会

蓑曳鶏(昭和15年)文部省天然記念物指定名称

 

長尾矮鶏(明治38年)日本家禽全書 日本家禽協会

鶉尾の尾曳鶏(大正12年)尾長鶏並に諸鶏の記  五十嵐正龍

簑引矮鶏(大正13年)大正十三年特種家禽品評会出陳名簿

簑曳矮鶏(大正13年)家禽研究 日本種号  

簑ひき矮鶏(大正15年)飼ひ鳥 七講(上) 三井高遂  

簑曳チャボ(昭和3年)チャボ 深川景義

簑曳矮鶏(昭和8年)家禽図鑑 三井高遂 

蓑曳矮鶏(昭和12年)文部省天然記念物指定名称

尾曳(昭和26年)日本鶏之歴史 小穴彪

 

蓑曳鶏蓑曳矮鶏はそれぞれ独立した鶏種の天然記念物指定名称である。

 

尾曳に矮鶏を付加して尾曳矮鶏(おびきちゃぼ) と表記するものや、尾曳鶏もある。

 

この鶏種は蓑曳矮鶏とは別形態をしたものである。

 


 

 蓑曳矮鶏 みのひさちゃぼ の正体は

 

  文化遺産データベース 蓑曳矮鶏

 

  これは入力ミス(きをさと間違えたのか)ですので、訂正をさせる必要がある。

 

 文化遺産オンラインは、文化庁が運営する我が国の文化遺産についての電子情報広場(ポータルサイト)です。

 



 

 白色蓑曳矮鶏の復元  

 

 家禽研究 日本種号(大正13年)、家禽図鑑(昭和八年)には稀に白色のものある。との記述があるが、現在の白色蓑曳矮鶏は平成 年、まず、褐色蓑曳矮鶏より偶出した(高知県長岡郡本山町産)を、保存会会員がこれを入手し飼育していたところ、白色のが生まれたとの情報が愛媛県より寄せられた。これを番として繁殖をはかり年々改良を行い、現在の白色蓑曳矮鶏の完成をみた。

 

 平成25年8月現在、白色蓑曳矮鶏の繁殖を行う会員は1名のみで、特に脚、尾の質が劣化してきた。

 

飼育希望者の出現を待ち望んでいます。

 

 



 蓑曳矮鶏の尾

 

  海外の蓑曳矮鶏の状況

 

 



2014/02/04撮影
2014/02/04撮影

  蓑羽・尾羽の形状

            

 蓑羽は豊かで頗る長く、地に曳く。

 

尾は大きく、丸く流れ謡羽及び覆尾羽は長く著しく湾曲し、尖端を程よく地に曳く。

 

主尾羽も長くそのうえ湾曲し、後方から見たときは球形をなす。 

 

短脚すぎるため姿勢が良くない。

胸の張りが頸部が短いので物足りない。

黒蓑羽の綿毛を黒色に誘導している。

綿毛がない方が鑑賞上スッキリする。

土佐地鶏の鞍部のようにしたい。